2010年03月11日
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面白ショートショート『バルブ景気』

Written By: 遠野秋彦連絡先

 A君の最後の肉親であるおじさんが天にめされました。

 A君はこれからどう生きていけばいいのか途方に暮れました。

 しかし、1つだけ遺品があることが分かりました。それはロボットでした。

 「おいロボット、おまえは何ができる?」

 「バルブを作れます」

 「料理は?」

 「できません」

 「洗濯は?」

 「できません」

 「掃除は?」

 「できません」

 「いいよ。バルブを作って売ってきてくれ」

 「作るだけで売れません」

 「しょうがないな。作ってくれよ。オレが売ってくる」

 しかし、ロボットが作ったバルブを街に持っていくとバカ売れしました。A君は大金をせしめて帰りました。

 「これからも、じゃんじゃんバルブを作ってくれ」

 「はい、ごしゅじんさま」

 A君は働かずにすぐ大金持ちになりました。

 しかし、都合の良いことは長続きしません。ロボットは壊れてしまいました。直そうにも死んだお爺さんの手作りで図面も無く、誰も直せませんでした。

 A君はあっという間に貧乏に逆戻りです。

 「ははは。まあいい夢を見たと思ってあとは地道に働くか」

 ところが、すぐに地道には働けないことを思い知りました。

 「バルブが弾けた! 水が止まらないよ!」

 売ったバルブには欠陥があり、故障するごとにA君は呼び出され、修理をさせられたのでした。毎日どこかに呼ばれるほどでした。売ったバルブの数は膨大だったからです。おかげで、地道に働く時間もありませんでした。

おわり

(遠野秋彦・作 ©2010 TOHNO, Akihiko)

遠野秋彦